八木研究室(*1)の研究概要(中高生の皆さんへ)

(*1) 八木先生は退職なされましたが、同一分野の先生として、塩野先生が着任されました。

金融危機と学級内いじめと交通整理と !?

~社会科学分野におけるIT利用~

タイトルをご覧になって,「なんだ,これ??」と思われた方,多いと思います.私も部外者なら同感ですから.実はこれらは全部同じITを使った研究テーマなのです.金融,教育,交通,環境,,,など人間の社会の様々な面を解決する研究は,主に社会科学分野に属します.それに対し,通常理系の研究者は自然科学分野に属する問題を扱います.これまでは社会科学分野の課題は社会科学者が,自然科学分野の課題は自然科学者が取り組んできました.しかし,コンピュータの性能が飛躍的にあがり,複雑な社会科学分野の課題にコンピュータが使えるようになってきました.私たちの研究室では,その中で冒頭に挙げた課題について取り組んでいます.では,どういう風に取り組んでいるのか,これから簡単に紹介したいと思います.

1.マルチエージェントシステムを用いた金融市場シミュレーションの構築

2.マルチエージェントシステムを用いた教育現場におけるいじめ対策方法の検証

3.マルチエージェントシステムを利用した車両の割り込みシミュレーション

いかがだったでしょうか? 最近の著しいITの発達で,これまで本格的に扱うことが少なかった(というか,できなかった)社会科学分野の問題に,自然科学分野の研究者たちが目を向けるようになってきました.その結果,文系と理系の隔たりがとても少なくなってきています.これまでだと「自分は理系科目の方が得意だけど,興味があるのは経済とか教育とか社会科学系なんだよね」という方は大学の文系学部へと進学していました.しかし,これからはそういう方が理系学部へ進学する道も出来てきましたので,進路を決めるときに少し考慮されるとよいかと思います.

おしまい.

1. マルチエージェントシステムを用いた金融市場シミュレーションシステムの構築

株式市場や外国為替市場を知っていますか?ニュースで「○○社の株価が急落」と言っているのを聞いたり新聞をパラパラとめくって株価欄を目にしたりしたことがあるのではないでしょうか.これらの金融市場をマルチエージェントシステムを用いてコンピュータ上に仮想的に作り上げたものが人工市場です(下図).人工市場では,エージェントと呼ばれるプログラムで構成された投資家が取引を行っています.投資家のエージェントは株価の予測や学習を行い,株式の売買を行います.株価の予測方法は現実の投資家と同様に様々なものがあります.株価の動きを見たり,株式の状況を表す指標を参考にしたり,何も考えずにランダムで取引を行ったりと様々な投資家エージェントがいます.様々なエージェントが取引を行うことで現実の市場と同じ市場をコンピュータの中で観察することができます.

人工市場は何に使うのでしょうか?人工市場を使うと金融危機など現実の市場で起こる現象がどうして起こるのか調べることができます.また,株式投資を始めたい人が人工市場を使って取引を練習することもできます.本研究室では人工市場を利用して実際の市場で使われる規制や取引方式が市場全体に与える影響について等を研究しています.

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2. マルチエージェントシステムを用いた教育現場におけるいじめ対策方法の検証

 

現在日本では,学校での「いじめ」が大きな問題となっています.もしかしたら皆さんも加害者側もしくは被害者側,ただ見ているだけだったものどのような立場でも一度はかかわったことがあり,つらい思いをしたことがある人もいるかもしれません.現在Google検索で「いじめ 対策 学校」で検索すると約50万件もの記事が出てきます.そこには様々な対策方法や防止方法が書かれていますが,これらを実際に検証するには生徒と教師,家族,学校や教育委員会など様々な協力が必要になり,現実的に考えて検証は難しいことが分かります.

そこで,本研究ではマルチエージェントシステムを使うことでより効果的ないじめ対策方法を検証します.この研究ではエージェントに学級内での役割と性格嗜好が割り当てられています.例えばあるエージェントには「生徒」といった役割と「同じ話題が好きならAさんとBさんは仲が良いといえる」「友人がいじめられていたら教師に報告する」等の性格嗜好といった具合です.エージェントはこのようなプログラム(設定)によって現実と似たような振る舞いをします.本研究では,彼らに学級生活をしてもらうことで,いじめが発生したときどの対策がより効果的なのかを調査しています.

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3. マルチエージェントシステムを利用した車両の割りこみシミュレーション

みなさん,休日に家族で出かけたときに渋滞に巻き込まれたことはありますか?移動中に渋滞に巻き込まれると多くの時間を無駄にした気になりますよね.国土交通省の調べによると運転者一人当たり年間40時間も損失しているそうです.この40時間の損失をみなさんはどのように思いましたか?「たった40時間」それとも「40時間」?

とらえ方は様々だと思いますが,実はこれは時間だけの問題ではないのです.渋滞中は買い物もできないので経済的にも問題ですし,排気ガスを出すことで環境的にも打撃を与えているのです.また,渋滞が発生する場所もさまざまで,行楽シーズンの高速道路はもちろん,例えば,週末の大型店舗の駐車場出入り口でも渋滞はよく発生していますよね.

そこで私たちは,まず,エージェントを仮想の車とし,駐車場出入り口付近をシミュレーションするシステムを作りました(下図).そして駐車場出入り口付近の混雑を解消すべく,駐車場から出る車が店舗前の道路への割り込みをスムーズに行うためのルールを見つけだすことを試みました.まず店舗前の道路の交通量を調べ,現実に近い環境(モデル)を作り出すために割り込み数の調査を行いました.そして,そのデータを基にモデルを作り,様々な割り込みルールを実験することで最適な割り込みルールを見つけることに成功しました.